【厳つい顔の老人】
「……お主がミリネ=サンリオンじゃな?」
【ミリネ】
「は、はいぃ、そ、そうですぅ……」
【厳つい顔の老人】
「ふむ……。この者がそうか」
【厳つい顔の老人】
「……確かに、身に宿す『神性』がとてつもないのう……。
ふむ……。お主、中々の逸材じゃのぉ。ニチャァ」
【ミリネ】
「ぴぃっ!?」
【神父】
「……あ、あの、最高導師。
あまりミリネさんを怖がらせないでください……」
【最高導師】
「こ、怖がらせているじゃと?
緊張を和らげようと、微笑んだだけなのじゃが……」
――あの日、ミリネが女神の神託を受けた後、
事態は急展開を迎えた。
神父は慌てて王都にある巫女養成機関
≪聖務院≫に事の次第を伝えたのだ。
聖務院の対応は早かった。
崇拝する女神からの≪神託≫ということもあって、
わざわざこの僻地まで院の関係者がミリネを迎えにやって来たのだ。
【最高導師】
「……ゴホン。とにかくじゃ。女神様の神託もあるわけじゃし、
お主は聖務院にて巫女候補として修行をしてもらうことになるわけじゃが……。
ミリネ=サンリオンよ、その覚悟はあるか?」
【ミリネ】
「ひぃっ!?」
最高導師の鋭い眼光がミリネを射抜き、
その顔の厳つさとあまりの迫力に、涙目になるミリネ。
【最高導師】
「女神様の巫女になるための修行は想像を絶する厳しさじゃ。
並の人間では一日と持たぬ。
お主はその修行に耐える覚悟はあるかの?」
【ミリネ】
「………………。」
人々にとって、神託は絶対だった。
ミリネが巫女候補として修行することは確定事項である。
だが、それでも最高導師はミリネに覚悟を説いた。
【ミリネ】
「あ、あの、まだ今の状況をよく理解できていないんですけど……」
【ミリネ】
「でも、その聖務院?て所に行くことがみんなのためになるなら、
私、頑張れると思います。ううん、頑張りたい、です!」
先程まで最高導師の視線に身を竦めていたミリネ。
だが、最高導師の問いに、ミリネはしっかりと彼の目を見ながらはっきりと答える。
まだミリネは自分がこれからどうなるのか理解できていない。
ただ、修行とやらを行えば、村のみんなの力になることができる。
それだけは理解していた。そして、それだけ分かっていれば十分だった。
【最高導師】
「ほう、他人のために、か。よい言葉じゃ。
女神様が目をかけておられる理由も分かるのう……。
カカカ。気に入ったぞミリネ=サンリオン!」
【ミリネ】
「ひぃっ!?わ、私は食べても美味しくないですよ!?」
【最高導師】
「ワシはただ微笑んだだけなのじゃがのう!?」
巌のような顔をクシャクシャに歪めて笑った最高導師。
しかし、その姿がミリネには怪物が獲物を前にほくそ笑んだように見え、
彼女は再び涙目になるのであった……
………………
…………
……
ガラガラ、ガラガラ、ガラガラ……
【最高導師】
「――というわけじゃ。
ふむ。あらかた話したつもりじゃが、他に聞きたいことはないかの?」
ミリネは馬車に揺られながら、同乗している最高導師に
聖務院や女神の巫女について聞かされていた。
セフィリオ神聖王国が、
そもそも魔瘴を封印するために作られた国であること。
女神の巫女とは、500年に一度発生する
≪魔瘴≫を封印するための存在であること。
女神の巫女を選定するために、全国から巫女適性がある者たちを集め、
切磋琢磨し互いに高め合う機関が聖務院であること。
自分が聖務院で巫女候補として他の候補者たちと共に修行を行うこと。
そして、女神の巫女とは大勢いる候補者の中からただ一人のみ選ばれること。
【ミリネ】
「ええと……はい。大丈夫です。
つまり、村のみんなを救うために、私が女神様の巫女になればいいんですよね?」
【最高導師】
「カカカ。言いおるのう。
お主のように女神様の巫女を目指す巫女候補は数多おるのじゃぞ?」
【ミリネ】
「はい、分かってます!
でも、みんなを助けたいって思いは、他の誰にも負けるつもりはありませんから!」
女神の巫女とは何なのか。
その話を聞いたミリネはすでにやる気満々であった。
自分が頑張れば村の皆が……
いや、このセフィリオ神聖王国の全員が≪魔瘴≫の魔の手から逃れられる。
思いやる心が人一倍強いミリネにとって、
その話は己を奮い立たせるのに十分なものであった。
かつて己の無力に嘆き、女神に祈ることしかできないことに
心を痛めていたミリネにとって、女神の巫女とは希望となった。
【ミリネ】
「だって、私は女神様に直々に『巫女になれ』って言われたんですから!」
ミリネはあの日、女神の神託を受けたことを思い出す。
『女神様に期待されている』――それが彼女に自信をつけさせていた。
【最高導師】
「カカカ。さて、そう上手くいくかの?」
だが、そんなミリネに水を差すように、最高導師があの凶悪な笑みを浮かべる。
【ミリネ】
「それは、どういう意味ですか?」
最高導師の顔にも見慣れてきたミリネは、
少しムっとした顔をしながら彼に尋ねる。
【最高導師】
「確かにお主は女神様に目をかけられておるのかもしれない。
じゃがの。女神様は未来を見られるわけではない」
【最高導師】
「つまり、確実にお主が巫女になれるということではないということじゃ」
【最高導師】
「女神様が神託を下したということは、お主に何かしらあるじゃろう。
しかし、それだけで過信してはいけぬぞ」
【ミリネ】
「…………。」
【最高導師】
「……とにかく、じゃ。
女神の巫女はただ一人のみが選ばれる。
お主がその巫女になるならば……少なくとも彼女を超えなきゃならんということじゃ」
【ミリネ】
「彼女?…………あ」
言いながら、最高導師が馬車の外を指差す。
それと同時に、停車した馬車。
どうやら、目的地に着いたらしい。
そして、最高導師が指差した方向には……
一人の美しい少女が佇んでいた。
【美しい少女】
「お待ちしておりましたわ、ミリネ=サンリオンさん。
ようこそ、聖務院に。歓迎いたしますわ」
【美しい少女】
「わたくしはナギ=エウノエ。アナタと同じ巫女候補ですわ。
同じ女神様の巫女を目指す身として、共に頑張っていきましょうね」
馬車から降り立ったミリネに、少女は深々と頭を下げ一礼する。
【ミリネ】
「…………キレイ」
その所作の一つ一つが洗練され、一挙手一投足の全てが美しい。
ミリネはナギに挨拶することさえ忘れ、ただ彼女に見惚れてしまう。
【最高導師】
「彼女が今、最も女神様の巫女に近しい存在――筆頭巫女候補。
つまり、女神の巫女を目指すお主のライバルというわけじゃな」
【ミリネ】
「ナギ、さん……。
こんなキレイな人が私のライバル……」
先程まであった自信が崩れる音がした。
『勝てっこないよ』と、思わず口から漏らしそうになるのを必死に抑える。
それほど、ナギという少女は完璧で、美しかったのだった……
………………
…………
……
≪続く≫